野球の野村監督がよく使った言葉に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」というものがあります。元々の出所は、平戸藩の藩主で、剣術の達人でもあった松浦静山が著した「剣談」に書かれた文章とされます。負け試合には負けるだけの十分な理由・敗因がある一方、勝ち試合には必ずしも十分な理由がなくとも、相手の失策など、運も味方につけて勝ってしまうことがある、という意味で使われていました。
ゴルフに喩えると、素人でもパーやバーディが出ることもある一方、大叩きする時には、必ずミス・ショットや判断ミスがあって大叩きにつながる、というような話です。
「不思議でない負け」を喫しないようにするには、会社のマネジメントでいえば、「防げる判断ミス」を防ぐ、ということです。世の中の様々な失敗事例を見ても、失敗するには失敗するだけの十分な理由があることに気づきます。また、そこには一定の定石ともいうべき「失敗の法則」があります。
その典型的なものは、関係者間のコミュニケーション不足とイマジネーション不足です。事前に情報が適切に共有されていなかった時に発生するトラブルなどは、起こってからその原因に気付きますが、前以て情報共有しておけば容易に防げるものであったり、或いは事前に周囲の知恵を得ることによって別の対応が取れていた可能性が高かったりするものです。また、1~2年後に眼を向けて、その時点で何が起こり得るかという将来に対する想像力を働かせることで、リスクに対する策を講じることもできます。
何故、関係者間で十分なコミュニケーションを取らないのか、という原因を辿って行くと、眼の前の問題を過小評価して自らの力を過信していたり、周囲に知恵を持っている人がいることを知らなかったり、信頼関係などの問題で、他人の協力を仰ぐことが出来ない(仰ぎたくない)背景があったり、個人的な判断で情報共有の範囲を限定していたり、ということが考えられ、更には当事者が、後々問題の原因となり得ることを自覚していない、ということも事態を複雑にしています。
「勝ちに不思議の勝ち」という言い方には多分に「運」のニュアンスを含みますが、「運」を呼び込むには個々人の細心の注意や日々の努力が必要であり、それらの積み重ねがあってこそ、「運」にも恵まれるものです。
また、個々人の能力や努力の積み重ねに加えて組織としての情報共有、助け合い、横連携を大切にする組織文化があってこそ、組織能力を十分に高めることが出来ます。
当たり前のことを当たり前に行い、やるべきことに対して手を抜かずにきっちりとやり遂げ、更には各人がチームの力を引き出す意識を持つことが「不思議の勝ち」をもたらすものであり、組織として本当の実力を養うことにつながるものであると考えています。