ホンダには「A00(ゼロゼロ)」という言葉があります。この「A00」とは、元々米軍の任務指令書の中で「目的」という意味で使われ、そのプロジェクト(軍事行動)の最終達成目標を「A00」として定義します。ホンダでは、これを「目的」や「夢」という意味で使い、これに関する議論では曖昧な答を許さず、本質まで徹底的に考え抜くことを求めます。
トヨタでは「何故?」を5回繰り返すことによって、問題の「要因」ではなく「真因」を突き止めます。このような目的や本質を徹底的に確認・追求する企業風土が世界で通用する日本メーカーの強さの一因です。
我々の仕事においても、目の前の仕事(「タスク」)として見えていることと「究極の目的」との関係をきちんと意識しておくことが大切です。例えば「コストの削減」はそれ自体が究極の目的ではなく、その上位にあるものは、会社としての競争力を強化することであり、組織の体力・持続性を高めることです。そして更に上位には、社会課題を解決すること、お客様のニーズを満たすこと、社会的価値と経済的価値を創造すること、その結果として企業としての収益性を高め、社員の物心両面の幸福を実現することがあります。
最終的に達成すべき目的や目標がしっかりと定義されていれば、そこに至る道筋は必ずしも一通りではなく、ある道が障害物で塞がれていれば、別の道を探す、回り道をする、などの柔軟な対応が出来ます。逆に、その目標の定義を取り違えると障害に遭遇した時に、適切な次の行動が採り難くなってしまいます。
我々の仕事やビジネスモデルは長期間一つの所に留まっていません。我々のお客様もずっと同じサービスを使ってくれるものではありません。世の中は常に変化しているので、その時々の環境や社会・お客様から求められるものを敏感に察知し、知恵を絞って、それらに応え続けるために、変革を繰り返す、というのがビジネスの本質です。
今日の社会課題はこれまでに解決出来ていないことが残っていますので、当然のことながら、従来のものよりも難易度が高くなります。その一方で、他人の過去の経験や最新のテクノロジーなど、我々が活用できる情報や技術も、世の中に溢れています。
我々がサービスを提供することで顧客ニーズを満たし、社会の要請に応え、その顧客満足の対価として収益を得る、という過程で人は鍛えられ、次の世代を支える人材を育てることが出来ます。
それが「人が仕事をつくり、仕事が人を磨く」ということです。そのストーリーの根本にある「A00」について、ゴールを確認し、そこに至る道筋を共有することが個人にとっても、会社にとっても、とても大事なことだと考えています。