仕事を始めた頃には必要なかった眼鏡ですが、今では近視・乱視・遠視を抱え、定期的に眼鏡をつくる必要に迫られています。眼鏡を作る時に色々なレンズを試すことから、レンズによって同じ対象物でも見え方が全く異なる、ということに気付きます。私達は自分の眼に見えているものが「実物」だと思いがちですが、実際には眼で見えていない部分も脳が補正して全部見えているように感じさせています。何が「実物」なのか、本当に「実物が見えているか」ということは意外と奥の深いことであり、物事を「色眼鏡」で見てはいないか、クリアに物事が見えているか、常に留意しておかねばなりません。
人間の眼を曇らせる要因として様々なバイアスがあります。「確証バイアス」とは個人の先入観に基づいて他者を観察し、自分に都合の良い情報だけを集めて、自らの先入観を補強する傾向をいい、一度ある決断を行うと、その後に得られた情報は、自分が決断した内容に有利に解釈してしまいがちです。
「感情バイアス」は、感情的要因による認知と意思決定の歪みのことを指し、人間は一般的に、好ましくない、精神的苦痛を与えられるような厳しい事実を受け入れたがらないことをいいます。
「正常性バイアス」とは、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう特性のことで、自然災害や事件、事故といった被害が予想される状況下にあっても、それを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、都合の悪い情報を無視したり、「自分だけは大丈夫」「まだ大丈夫」などと過小評価して、適切な手を打つのが遅れる原因となります。
バイアスの罠に陥らずに、物事の本質を見極める為には、真摯に謙虚に他人の話に耳を澄ますことが役立ちます。我々は同じものを見たり、聞いたりしているつもりでも、人によって「見え方」や「聞こえ方」が異なります。我々の頭脳はコンピュータと同様に、同じものをインプットすれば、出て来るアウトプットにはそれほど大きな差はない筈ですが、現実には、人によって出す答が異なります。
それはインプットされる情報の量や質の違いに加え、これまで積み重ねて来た経験知や暗黙知の質・量や、考えの深さ、視点の置き方等が異なることが大きな原因と考えられます。その意味で、意見を異にする人の話を聴くことは、我々に貴重な気づきをもたらしてくれることになります。
会社の中での立場によっても「景色」の見え方は異なります。オフィスでの仕事と、現場の仕事では、見える景色は違いますから、お互いに立場の異なる人にどういう景色が「見えているのか」、どういう情報が入っているのか、ということに想像力を働かせることも大事です。自分が見ていることが全てだと考える人は少ないですが、相手にどのようなものが見えているかを真剣に考えようとする人もそれほど多くはありません。
上司・部下・取引先を問わず、経験や立場、持っている情報が自分と全く同じ人間は存在しませんので、何かの判断・意思決定・合意を必要とする際には、まずはそのベースとなるものを摺り合わせることが、一見遠回りに見えても結論を見出す有効な方法だと考えています。