不確実で変化の激しい現代において、新しいことに挑戦し、新しいビジネスを創造することに、失敗はつきものですが、我々は失敗から教訓を得ることで、将来の失敗を未然に防ぐ対応能力を身につけることができ、それがチャレンジする組織の基礎をつくることになります。
ある英国のジャーナリストが著した『失敗の科学』では、事故やミスへの対処方法が航空業界と医療業界では対照的であることを紹介しています。航空機事故ではブラックボックスが回収され、第三者機関が事故原因を徹底的に究明するほか、一般にパイロットがミスをオープンに報告する慣行が浸透しているのに対して、医療事故は事故自体も、その原因も表に出ることが少なく、専門性の名の下に「言い換えられ」たりして、原因を追究する姿勢が大きく劣り、結果として航空機事故の発生確率は歴史的に低下傾向なのに対し、医療事故はあまり改善されていないと分析しています。
2つの産業の違いは、置かれている環境や組織文化の違いに起因する面もありますが、失敗を伝達・浸透させる方法や姿勢の違いも影響しています。航空機事故の調査レポートでは、情報を精製して、伝達し易いように現実的に要点を纏めているのに対し、医療業界では医学雑誌で毎年70万件も発表される論文と格闘する必要がある、という違いも指摘しています(このような作業は、AIに適しています)。
組織的に失敗から学ぶ為には、失敗をその組織の中でどう取り扱うか、ということも重要です。担当者や責任者を責める前に、何が起こったのか、何故起こったのかを調査・究明することに重きをおけば、そこから学ぶ姿勢とオープンに議論する組織文化を醸成する機会を得ることになります。
ミスや失敗は複雑な要因から生まれることが多く、ミスを非難したり、懲罰を強化してもミスは少なくならず、寧ろミスの報告が少なくなり、ミスによって必要以上に非難されると当事者が感じれば、ミスは深く埋もれ、失敗から学ぶ機会がなくなり、同じミスが繰り返される可能性が高くなります。
人間の脳には、最も単純で最も直感的な結論を出したがる傾向があります。それは人の行動の原因をその人の性格的な原因に求め、状況的な要因を軽視する傾向、とも言い換えられます。そして自分自身のミスが絡む場合には、誰か別の人を非難することで自らのプレッシャーを軽減しようとする行動を取りがちになります。
失敗は様々な教訓に溢れています。失敗の報告を促すオープンな組織文化を構築する為には、早計な非難をやめ、その失敗の原因と責任の所在を冷静にフェアに判断するマネジメントとメンバーの間の信頼関係が不可欠です。
「真の無知とは、知識の欠如ではない。学習の拒絶である」
(カール・ポパー:オーストリア出身の哲学者)