組織に対する帰属意識の強さと、組織の大きさには相関関係があります。一般に組織が小さい程、帰属意識が強く、組織やその構成員(同僚)に対する愛着や忠誠心・信頼度も大きくなる、という性質があります。それが故に人間は、より小さな組織の「個別最適」を優先して考えがちであり、大きな組織の「全体最適」という考え方を浸透させるには、何等かの「力」、或いは特殊な「環境」が必要になります。
2011年3月の東日本大震災の直後、電力需給が逼迫した際に、節電や計画停電が必要となりました。電力需要が供給能力を上回り、広域で大停電となった場合には皆が大変な事態となることから、それを避ける為に各人が少しずつ不便を我慢して、自分を含む、より大きな集団の利益に寄与するような「全体最適」を優先させる必要性を実感できる、という特殊な環境がありました。また、震災直後という混乱の中、世の中全体の異様な危機意識から、個々人の不便や犠牲も止むを得ないという認識があったからこそ、受け容れられたことでした。
全体最適を受け容れ易くする要因の一つは危機感であり、震災後の例でいえば、TVなどを通じて、電力の需給関係を示すグラフを用いて、分かり易く解説され、広く周知されたことが、多くの人の納得感の醸成につながりました。
人間は自分自身に直接的なメリットがあることや眼前の危機対応には自然と力が入りますが、自分の行動と自らのメリットとの因果関係が薄いことには力が入り難いものです。「全体最適」も最終的には回り回って、何らかの形で自分達に還って来るものですが、その関係性が肚に落ちないと具体的な行動につながり難いことは否めません。組織の力を最大化する為に、マネジメントは、その関係性をメンバーに分かり易く説明し、納得させることが大切である一方、メンバーも全体の仕事の中で自分の役割やポジショニングを考え、どう動けば組織全体の成果を最大化出来るかを考えることが求められています。
「自分の役職の一つ上、二つ上の目線で考えるべし」と、よく言われます。課長は部長の目線で考えれば、部の全体最適を意識することになります。部長は本部長の目線で考えれば、本部の全体最適を意識できます。本部長や部長が社長の視点でモノを見て考えるようになれば、それは会社の全体最適を考えて行動する第一歩となります。
全体最適という言葉だけでは具体的なイメージが湧き難いものですが、自分が想定できる限りの上役の目線で考えることを「習い性」とすれば、そのイメージが共有出来るのではないかと考えています。