社会に出て仕事を始めた頃、「人が仕事をつくり、仕事が人を磨く」という言葉に出会いました。似たような言葉で「修羅場が人を育てる」ということも巷間よく聞きます。
これまで、色々な仕事、様々な人を見て来た中で、若い人が眼の色を変えて仕事やプロジェクトに取り組むことで、それまでとは見違える様に成長する場面に遭遇することがありました。そんな時、やはり仕事が人を磨くのだと実感します。逃げ出したくなるような修羅場に直面して、逃げずに立ち向かい、それを乗り越えた時に、人間が一回り大きくなっていた、ということもよく見る場面です。
「仕事が人を磨く」とは、どのようなメカニズムなのか。生きるか死ぬかの真剣勝負で剣術の腕を磨く様に、失敗が許されない厳しい仕事に取り組むことで、集中力を高め、潜在的能力を開花させる、という面もあります。厳しい締切に負われる仕事をすることで、瞬発力が養われることもあります。人がやったことのない新しい分野の仕事をする場合には、想像力と創造力をフル活用する必要に迫られます。仕事がワクワクするほど魅力的であれば、自ずとモチベーションが高まり、それによって持てる力以上のものが発揮されるということもあるかもしれません。また、その仕事に集まるプロ人材の中で揉まれ、触発されることで磨かれることもあるでしょう。そして、仕事を成し遂げた達成感と自信が、人を大きくします。もし、それが撤退案件などの仕事だったとしても得難い経験や教訓を得ることが出来ます。これらが人を磨く仕組みなのではないかと考えています。
「切磋琢磨」という言葉があります。これは、中国の周の時代の「詩経」の言葉で、勉強したり、道徳に励んだりして人間が成長することや、友達同士競い合って自分を磨くことを表します。「切磋」とは刀で削り、やすりで磨くことを言い、「琢磨」はノミで削り、砂石で磨くことです。人間として成長する、或いはプロフェッショナルを鍛えるには相応の環境やお互いに関係する「人」が重要ということです。
社内外を問わず、我々は仕事をする相手と、時に一体感、時に緊張感を持って切磋琢磨する関係にあります。お互いに高度な専門性を持った、様々な人との接点を通じた「切磋琢磨」が成長の糧になります。この言葉の響きは、切ったり削ったりと、「痛い」思いを想起させ、物理的にゴツゴツした荒っぽい語感を持つものですが、真剣勝負の厳しさとそのことの大切さを的確に表しています。
「ダイヤモンドはダイヤモンドでしか研磨出来ない」と言います。高い志と高質の暗黙知を持ったプロフェッショナル同士が仕事を通じて切磋琢磨し合う、磨き合うことを旨とする、そんなチーム、そんな会社でありたい。そして人を磨く仕事をつくる、その環境を整えるのがマネジメントの役割であると考えています。