Friday Massage IsaoUeda

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Friday Message

2025年6月6日

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伝える力

南海(現在のソフトバンク)、ヤクルト、阪神、楽天の4球団で監督を歴任した野村克也監督には、西武を最後に45歳で現役引退した後、講演依頼が殺到しました。当時は人前で話すことに苦手意識があり、話すべき中身、野球の体験が豊富にあるにも拘らず、それをうまく表現する言葉が出て来ず、円形脱毛症になるほど悩んだそうです。

その際に師と仰ぐ草柳大蔵氏から得たアドバイスは「本を読め」ということでした。もとより野球で得た「視点」や「体験」によって豊富な暗黙知・経験知が本人の中に蓄積されていましたから、その体験を適切な言葉に置き換える(形式知化する)スキルを身につける手段が読書だったということです。ご本人はこれもトレーニングと考え、苦手な講演も積み重ねて行くうちに、うまく出来るようになったとのことです。

グラウンドを離れ、野球解説と講演をしながら、自分の思考を言葉にする訓練を9年間続け、「選手に届く言葉」を紡ぎ出す能力を会得したことが、その後の監督業に大きな影響を及ぼしたことは想像に難くありません。

人にものを伝える、或いは人から何かを伝えてもらう、という「作業」は我々の仕事の中で、相当な比率を占めています。ビジネスにおける「交渉」や「説得」の重要性は言うまでもありませんが、交渉上手、説得上手といわれる人に共通する能力は「伝える力」と「聴く力」(伝えてもらい、理解する力)です。様々な場面での「伝える力」「聴く力」の優劣が我々の仕事の成否や生産性に大きく影響を及ぼしているとすれば、如何にしてそれらの力を高めるか、ということに対して我々はもっと関心を持つ必要があります。

野村監督のように本を読むこともその一つです。本や他人が書いた文章を読むことは、形式知化した他人の経験知と(まだ言葉になっていない)自分の経験知をぶつけ合うことを意味し、文章を読みながら形式知と暗黙知の間を行き来することは、暗黙知を形式知に置き換える力を磨くことにつながります。

人にものを伝えるのは、自分の頭の中にある「構造物」を分解して、相手の頭の中に「移築」するような作業である、といいます。自分が理解していることが、瞬時に相手に伝わることはないので、一つひとつの言葉や絵やストーリーなどを介して、相手の理解を積み重ね、自分と同じレベルの「構造物」に仕上げていく、というイメージです。

留意すべきは、同じ言葉を見聞きしても、過去の経験知や直近でインプットされる情報の質と量によって、受け取り方は人それぞれに異なる、ということです。相手がどのような経験知を持ち、今の立場でどのような情報が入っているのかも想像することに加え、誤解なく受け取ってもらえる言葉を選ぶ努力と工夫を重ねることで、「伝える力」を高めることが出来ると考えています。

野村監督の言葉:
『言葉を磨くためにいちばん有効なのが読書ではないだろうか。良書を読むことはその人の表現力を豊かにする。野村自身も、評論家時代に貪るように本を読んだことで自分の言葉を獲得できたと思っている』

- Friday Message

『Friday Message』について

このweekly messageは、前職で2006年4月に海外赴任した際、スタッフメンバーが米州各地に散らばっていたことから、「一つのチーム」としての意識を醸成するために始め、勤務地や仕事の内容が変わっても、変わることなく今日まで続けてきたものです。

テーマの多くは仕事全般に関することで、誰もが考えたり、疑問を持ったり、悩んだりするものを採り上げていますので、自分で何かを考え、自分なりの答えを出す時に、何らかの気づきやヒントになればと思います。

植田勲プロフィール

1983年4月
三井物産入社。ハーバードビジネススクールPMD修了。
米国三井物産副社長(物流DOO)、アジア太平洋州本部CAO、IT推進部長、ロジスティクス統括などを歴任。2020年三井物産流通ホールディングス(現三井物産流通グループ)社長。
2024年4月
沼尻産業に入社。常務取締役 事業統括本部長に就任。
2025年4月
専務取締役 事業統括本部長に就任。

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