「マインドセット」とは、直訳すると「心のあり方」ですが、心理学の用語で人間が持つ「無意識の思考・行動パターン」「固定観念や思い込み」「物事を捉える時の思考の癖」を意味します。マインドセットはその人の思考や行動の根幹となりますが、遺伝的なものではなく、意識や習慣化によって変えることができるものです。
代表的な「マインドセット」には2つの種類があります。一つは「Fixed Mindset」で「硬直マインドセット」と訳されます。「硬直マインドセット」は「人間の能力は経験や努力によっては変わらない」という考え方で、このマインドセットを持つ人は、目標を達成するまでの間に障害が生じると、不正やごまかしを行おうとしたり、自分より劣る人間を探したりと課題解決につながらない行動に走り易い特徴があります。
もう一つは「Growth Mindset」で、「成長マインドセット」或いは「しなやかマインドセット」と訳されます。このマインドセットの人は、「人間の能力は経験や努力次第で向上できる」という思考から積極的に物事に挑戦し、自主的に努力する傾向があります。このマインドセットを持つ人は、集中力や忍耐力が向上し、目標を達成するまでの間に生じる障害にも対応できる性質があります。
マインドセットに関する研究で知られるキャロル・ドゥエックは、「硬直マインドセット」の人は、自分が他人からどう評価されるかを気にして、自分が優れていることを示そうとする結果、間違えたり、失敗したりすることに臆病で、他人からの批判を受け容れ難いのに対して、「しなやかマインドセット」の人は、自分を向上(成長)させることに関心を向け、自ら進んで困難に挑戦し、他人からの批判にも耳を傾け、それらを糧に更に成長していく人で、壁が高いほど頑張ろうとする姿勢を持つ、と指摘しています。
「硬直マインドセット」の人にとっての成功とは、自分の優越を確立させることであり、努力することを誇りには思わない一方で、失敗すると自らを負け犬だと思ってしまい、立ち直れなくなってしまう傾向があり、「しなやかマインドセットの人」は、一生懸命に努力すれば、努力しただけの成果が返って来ると信じ、常に向上することを心掛け、自らの過ちや欠点をしっかりと見据え、根拠のある自信を持って前進します。
組織的に「しなやかマインドセット」に切り換えて、組織変革を成し遂げたのがマイクロソフトです。サティア・ナデラは、CEO就任後、社内各層へのヒアリングを通じて、どのような企業文化を望むか、会社の伝統で守るべきもの、捨て去るべきものは何かを詳しく分析する中で、キャロル・ドゥエックの研究にヒントを得て、最終的に「Growth mindset」を採用しました。そして側近たちに彼女の代表作である「マインドセット」を読ませ、「『知ったかぶる人』から『何でも学ぼうとする人』になれ」という表現で従業員に変化を求め、リスクを避けようとする姿勢や、大企業にありがちな部門間の駆け引きを減らしました。
「しなやかマインドセット」を採り入れることは、我々の意識をよりしなやかに、積極的な心持ちに変え、働き易い職場づくり、価値を創造する仕事づくり、個々人が成長する組織づくりに直結するものと考えています。